「水の温度」
カレーの専門店に行くと、辛さは何種類かあって選べるようになっています。
レトルトのカレーでも、市販のカレールーでも甘口・辛口・中辛、と3段階くらいに辛さは分かれています。人の好みは辛党から甘党まで千差万別で、辛いのが好きな人は甘いカレーは物足りなく感じますし、辛いものが苦手な人には、激辛カレーはヒーヒーいうだけで、とても食べられるものではありません。
私は子供のころに少年ジャンプを愛読しており、連載されていた『包丁人味平』という料理マンガが好きでした。万人受けするカレーを作るべく奮闘する主人公の味平は、カレーの辛さは一種類にしたいとこだわります。
一種類の辛さで、すべての人に愛されるカレー。周りの人は「それは難しすぎるから、やめよう」と諭すのですが、味平はあきらめません。
この無理難題に果敢に挑戦する、というところが少年ジャンプの一貫したテーマでもあります。
辛さの問題をクリアするために悩み抜いて味平が出した結論は、カレーの辛さは辛めにする、というものでした。それを冷たい水と薬味の福神漬けを交互に口の中に運ぶことで、辛さはマイルドになるのでは、と考えたのです。辛いカレーを食べたあと冷たい水を飲むとカレーの辛さは消えてカレーの美味さと余韻が口の中に残る・・。
そして、辛いアジヘイカレーに合う福神漬けと水の温度の研究が始まります。たくさんのコップに氷を浮かべて、水の温度を測る味平・・・。冷たいといっても果たして温度は何度がいいのか、試行錯誤は続きます。
5月は田植えの季節です。田んぼの周りには草も生え、緑の濃さも増してきました。
対照的に、下から仰ぎ見る妙高山はまだたくさんの雪に覆われ真っ白です。水路を流れる水は、長く手を入れていられないほどの冷たさ。雪解け水だから当たり前ですね。
温かいぬるめの水でイネを育てると、よく育ちます。イネはもともと亜熱帯原産の植物ですから、南方のちょっと暑いくらいの気候が大好きです。南国原産のその苗に冷たい水を掛けると縮み上がり、生育を止めてしまいます。今はまだ葉っぱも2〜3枚ですから、苛酷な環境でしょう。
しかし、美味しいお米の産地といわれるところが、おしなべて雪国であるように、おコメの味と雪解け水には深い関係があります。ちょうど冬の野菜である白菜やほうれん草が、霜が当たると甘くなりますが、それと同じことが起こっているのではないでしょうか。
冷涼な気候・冷たい水の環境では生きていくのが大変だ、ではどうすると考えた結果、植物は、糖分や各種のビタミンなどを体内に溜め込み、寒さをしのごうとするのだと思います。
人間も温かいお風呂で体をふやかしてのびのびとリラックスしたあとで、冷水に浸かると毛穴がきゅっと収縮するような感覚がありますね。イネも冷たい水を掛けると、体がきゅっと締まった様子になります。生長はやや遅れるものの、程よいストレスは健全な生育に重要なものです。新潟は案外、気温的には温かいところですので、油断をすると南国のイネに育っていきかねません。
まだ赤ちゃんのイネに冷や水を浴びせるのは気が引けるものですが、イネが枯れることはなく、かえってしっかりしてきます。
気温・地温は高く、水温は低い、その落差が素晴らしい環境になるのです。
Tシャツ姿で農作業に汗を流しながら、水路で缶ビールでも冷やせば、人間にとっても最高の環境です。昼食はカレーにします。
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