「菌用日」

 苗箱は、新聞紙のちょうど半分の大きさです。
 その箱に種をまき、薄く土をかけてしばらくおくと芽が出てきます。苗代に運び出し、水分と温度を上手に管理していくと、約1ヶ月で長さのそろった苗が出来ます。丈の長さは100円ライター程度、葉っぱの枚数は3枚くらいでしょうか。そしてそれを5月になったら田んぼに移植、いわゆる田植えをします。

 うちでは殺菌剤は使いません。普通は1〜2回は使うんです。
 苗というのは、人間に例えると幼児期にあたります。人間ならば、熱が出た、水ぼうそうだ、インフルエンザだ、と次々と病気に襲われる時期です。体も小さく体力もありませんから大昔であれば、乳幼児は死と隣り合わせでした。
 しかし近代の医学の発達とともに、抗生剤だ、三種混合の予防接種だ、解熱剤だと薬が開発されて、赤ちゃんが簡単に死ぬことはなくなりました。
 人間が、病院で処方される抗生剤。農業の現場で農薬として使われる殺菌剤。菌を死滅させる、その役割は同じものです。ですから農薬としての殺菌剤の使用は、それほどおかしなことではありません。また大手のメーカーから販売されている農薬であれば、十分な臨床試験(?)も行われているはずなので、それほど危険ではないと思われます。
危険ではないけれども、積極的に使いたくない理由は、有用な菌までもすべて死滅させてしまう点にあります。
 それで、うちではもう15年以上も殺菌剤は使っておりません。ではどうやって赤ちゃんを病気から守るのか・・。
 答えは、温泉です。温泉? 温泉に行って元気になるのであれば、薬は要らないじゃないかということです。湯治ですね。
 最初、農業雑誌で「種モミの温泉療法」を読んだときは、そんなバカな、と笑いました。
しかし私もおもしろそうな事はやってみたくなるほうでして、モノは試しと始めてみたら、効果抜群。以来、苗は丈夫になり殺菌剤は要らなくなりました。
 人間にとっての入浴は、体を清潔にし(汚れや雑菌を洗い流す)、体温を上げて血行を良くし、免疫力をアップさせる、そんな効能があるでしょう。実はイネも同じで、ほんの数分間温浴するだけで、雑菌の繁殖を抑え細胞が活性化します。菌を殺すのではなく、菌のバランスを保つ方法です。

 ばい菌や雑菌がない世界は理想ですが、それはどだい無理な話であって、現実はそれこそ無数の菌が同時に存在し生きています。たまたま人間の都合で、こっちは有用菌、こっちは有害な菌、と勝手に分けているにすぎません。それらの菌が日夜、増殖を目指して勢力争いをし、バランスを保っているのだと思います。人間にとって有用な菌だけ生き残らせて、有害な菌は滅亡してもらおうと思っても、そんなに簡単にはいかないでしょう。有機農産物というのは、化学的な薬品などを使わないということですから、無菌とはまるっきり逆の考え方です。
 人間の腸のなかには数え切れないほどの多くの菌が生息しています。
 抗生剤をたくさん飲むというのは、腸内の健康を保つためにたぶん正しくありません。
むしろ野菜・果物・発酵食品の摂取がすすめられるはずです。生野菜についている酵素、ヨーグルトに含まれるビフィズス菌、きのこや、納豆や味噌や漬け物や・・・。
 もし健康な腸であれば、菌の数や種類が増えることによって、善玉菌優勢のバランスが保たれ、悪玉菌が活躍しにくい環境になると考えられます。すべての菌を目の敵にするのでなく、多くの菌と共存できる関係を作っていきたいものです。
 一週間に一度くらいは、生活のなかの「菌」についても考えるのはどうでしょうか、「菌用日」って言いますから・・・。あっ、金属やお金との調和が取れて「金用日」でしたか。いずれにしても次の日は、農家が土とたわむれる土用日です。こちらも楽しくて大切な日です。


田の中にいるドジョウ

梅の花

種モミの浸水



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