「草むしり」
草むしりは、地味です。
まず下を向いて、あ、草がある、ブチっ、あ、草がある、根元からよいしょ、あ、草がある、またブチっ、お、ここにも草、またブチっ、あ、こことここにも、ブチっブチっ。
ときどき顔を上げては、自分の進路を確認します。うわ、ここ草だらけだ、ブチっブチっ、すぽっ。ハイ、草、ブチっ、また草、すぽっ。
すぽっ、っていうのは、草を根元から引き抜くときの感覚で、根が土をたくさん抱いて抜けてきたときには、土を払い落とす、パンパン、がその後にきます。
よっこいしょ、ブチっ、ブチっ、ブチっ、うわ、ここ草だらけだ、ブチっ、すぽっ。パンパン。
「暑いな、・・暑い。」ブチっ、ブチっ、ブチっ、うわ、ここ草だらけだ、ブチっブチっ、すぽっ。
「アメリカの除草剤会社は、空から枯葉剤をまいて、植物を皆殺しにするっていうけど・・。」
ブチっ、ブチっ、ブチっ、うわ、ここ草だらけだ、ブチっブチっ、すぽっ。ブチっブチっ、すぽ。
「皆殺しっていうのは、ひどいよね。でもまあ、・・やるもんだよな。賛成はしかねるけど、そうはいっても、わからなくもないなぁ。」ブチっ、ブチっ、ブチっ、いや、草、あるね、ブチっブチっ、すぽっ。パンパン、ブチっブチっ。
「雑草魂、っていったやつ、あれ、すごいな。草、ホント強いし、どうして次々出てくるのかなぁ・・?」あ、草、ブチっ、あ、草がある、ブチっ、あ、草がある、ブチっ、またブチっ。
「そうだ、上原っていうピッチャーだ。、昔ジャイアンツにいた・・。雑草魂。確かに派手さはなかったけれど、メジャーまで行ったもんな。やっぱりあいつすごいんだな。」ブチっ、ブチっ、ブチっ、うわ、ここ草だらけだ、ブチっブチっ、すぽっ。ブチっブチっ、すぽっ。
「れれ、腰が痛い。伸ばすか、どっこいしょっと。しかし、暑いな。進んでるかな、どの位やったんだ? ま、まあ少しは進んでるか。」ブチっブチっ、すぽっ。パンパン、ブチっブチっ。ブチっブチっ、すぽっ。ブチっブチっ。
「雑草も、イネ科のものが多いわけだから、遺伝子組み替えの技術よりも、これを交配させるとか、何とかできないのかね? やたら丈夫なイネとか、季節を問わず実るやつ、とか、もっといろいろ出来るはず。そもそも試験場って何の研究をしてるんだ?」ブチっ。
「雑草という名の草はありません。どの草にも名前があるんです。・・・昭和天皇のお話だったっけ。」あ、草、ブチっ、あ、草、ブチっ、あ、草がある、またブチっ、お、またブチっ。
「おっしゃる通りではあるけれど、ただ、それって哲学だよな。農業じゃないな。園芸で雑草の駆除をしなかったら、悲惨な目にあうもんな。」あ、草だ、ブチっ、草がある、ブチっ、「哲学と農業って、どっちも難しいなぁ。国の象徴である天皇陛下にとっては、ま、農業よりも哲学が優先されるわな。・・『大根の間引きをしましたら、ことのほか、よく育ちまして・・・』なんて、お言葉で話されたら、・・・いや、話されるわけないし、まちがって政治問題化しかねないし・・。」ブチっ、ブチっ。
「マメ科の雑草ってのは、困るね、自分で肥料を作り出せるってんだから、急に大きくなる。」ブチっ、ブチっ、ブチっ。よっこいしょ、暑いな。ハイ、草、見つけましたよ。ブチっ。
「取っても取っても、また来年になると生えてくるんだから、不思議、ほんとに不思議、種はどこからくるのかな。」ブチっ、ブチっ、ブチっ。ハイ、草、ブチっ。
草取りを終えた田んぼは、株元まで空気が良く通り、心なしかイネが気持ち良さ気に見えてきます。夕方になると風も涼しくなり、顔を上げると美しい夕日とイネの波が見えます。今年もしっかり実ったイネに感謝です。
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