「蛇 口」

 梅雨に入ったものの北関東では雨が少なく、利根川水系で取水制限が始まって1週間以上が経過しました。
 いっぽう九州では、春先から地震の被害を受け崩れやすくなった山に、豪雨が重なり、災害が断続的に続いています。降ってほしいところには降らず、降らなくていいところに降るのですから、空を恨めしくも見上げたくなります。
 こちら新潟も、はっきりしない天気こそ続くものの、まとまった雨はなかなか降ってくれません。
 今年は暖冬小雪の冬だったこともあって、信越国境にあるダムの水位も大きく下がっていて、夏の水不足が心配されています。農業用水専用のこのダムは生活排水や工業排水が混入せず、いつもたいへんきれいで冷たい水です。そして豪雪地帯の雪解け水を集めたダムですから、普通なくなる・涸れるということはありえないのですが、今年はそんな事情もあり、農業用の水を生活用・工業用に転用ということになるかもわかりません。

 7月の20日を過ぎて梅雨が明けるころ、イネの生育ステージは急に変わり、水を欲しがるようになります。気温も夏本番となれば30度を超えますので、イネの体力を消耗させないようイネの身体を冷やす意味でも、田んぼに水を貯める必要が出てきます。8月にはいったときに、水がないとなるとこれは大問題なのです。
 状況を注視しながら、例年よりも早めに田んぼに水を貯めようかと考えているところです。

 G7のサミットが伊勢志摩で開かれた同じ時期に、農業大臣の会合が新潟で開かれました。
 そこで農業用水路が参加各国に紹介されました。新潟が世界に誇る水のかんがいシステムです。新潟では江戸時代に治水目的で用水路の建設が始まりました。長い年月を経て、今では網の目のように張り巡らされ、大稲作地帯を形成しています。新潟県内の田んぼに水が貯まると、人工衛星からも水面が鏡のように光って見えるとのことです。
 用水路の改良は現在も進行中で、圃場整備のされた最新の田んぼでは、地上にあった水路はパイプへと代わって地中に埋め込まれました。
 また田んぼの水口には大きな蛇口とセンサーが付いています。一定の水位を保つようセンサーをセットしておけば、勝手に水遣りをしてくれる、というわけです。
 もちろんまだ、地中の水道管が水漏れを起こしたりセンサーが働かなかったりとトラブルも多く、システム完成とはいえませんが、構想どおりに機能すれば便利ですよね。もともと土側溝のところを、地中の水道管に変更するわけですから、国のお金もずいぶん使われています。税金の無駄遣いとの批判もあるでしょう。
 ただ、先進国の人件費高騰や農業人口の減少を考慮すれば、これが未来の水利システムであることは間違いありません。
 この蛇口と、定点観測カメラ、GPS、インターネットなどを組み合わせれば、広大な田んぼでも実験室のように簡単に水管理が出来る可能性があります。さらにグーグルなどが推進している自動運転の自動車の技術が、トラクターにも応用されて実用化の運びになれば、多くの農作業が人間不要で自動化されるかもしれません。農民はパソコンの画面を見ているだけになります。
 50年後の農業の姿は、そういうものになっているでしょうか。

 もっとも、空から雨が降ってくれずに渇水にでもなれば、何も始まりません。田んぼの蛇口をひねっても乾いた音が出てくるだけです。蛇口を開いたり閉じたりするように雨量をコントロールできれば一番いいのですが・・・これはままなりません。
 80年前に岩手で農業をしていた宮沢賢治は詩『雨二モ負ケズ』のなかで、日照りの夏には涙を流したと書いています。
 さて今年の夏はどうなるでしょうか。



株の根元にヤゴが集まる→

茎に登って脱皮し、羽化する→

羽化したばかりのトンボ



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