「新聞で読むTPP」

 英字新聞を読み始めたのは、海外のサッカー情報が詳しいからという理由からですが、もうずいぶん経ちます。新聞好きの親の影響か、子供も小学生新聞をとって毎朝読んでいます。新潟県では新潟日報という地方紙が、圧倒的に優勢でほとんどの家庭・事業所で読まれていますが、うちはそんなわけで英字新聞と小学生新聞、それに農業の専門紙の3つです。
子供の新聞といっても、結構本格的でバカにできません。特にタイムリーな話題は大人の新聞と大差ありません。こっちにはこう書いてあるけど、子供の新聞にはなんて書いてあるんだろうと読み比べることもしょっちゅうです。

関税をなくして貿易をすすめようというTPP。このTPPの問題は、どの紙面でも大きく取り上げられています。
小学生新聞には「自動車業界は賛成、農業関係者は反対」と書いてありました。 え、農業関係者は反対? 農業関係者って誰でしょうか? 少なくとも私は強硬な反対論者じゃありませんし、どちらかといえば賛成です。うちの息子がTPPの記事を正確に理解できているとは思えませんので「パパも反対なんでしょ?」とは聞かれません。ただ、これは事実じゃないよ、と釈明したい気分になりました。
また、英字新聞には1面に「首相:補助金を増額してファーマーに配る」とありました。ファーマーって誰? 私たちが補助金なんて受け取れるの? と、またまた純粋な疑問がわきました。
実際の補助金は末端のファーマーにはほとんど届きません。ゼロではないのですが、スズメの涙ほどしか届きません。メディアで報道されているほど、農家は配慮されていません。例えば、農地を広げる基盤整備の事業は、工事を請け負う土木業者のフトコロをあっためる場合がほとんどですし、経営強化の名目のお金は、事務局と称する農協などの関係団体が自分達で使います。ファーマーに落ちるのは農協に出荷したときだけ。農協を通さずに自分でお客さんを探して直接販売すると、補助金はほとんどもらえません。 「農業関係者はみなTPPに反対」という書き方も正確じゃないし、「ファーマーに補助金を配る」という政治家の発言もニュースと言うよりは政治的なパフォーマンスです。
新聞各社への広告主であるJAグループ(農協)が、TPPに反対しているのは明らかです。JAグループは自分達が倒れたらお終いだと、たくさんの既得権と規制を守ろうとします。しかし、産業としての農業はどうしたら強くなるのかについては、不透明なままです。
アメリカが風邪を引いたり南ヨーロッパが寝込んだりすると日本が不景気になる、今はそんなグローバルな時代です。ですからTPPは本当は大事な問題なのです。しかし不思議なくらい、国会でもメディアでも丁寧な議論がありません。

安倍首相がTPP参加に踏み切ったのは「貿易立国・日本の再建」ためというよりは「アメリカからの強い要請」によるものでしょう。それは産業政策じゃなくて外交判断です。
だから、もしTPP交渉が決着しアメリカから強く開国を迫られる農産物があるとすれば、
穀物メジャーが得意な分野、農薬やバイオ企業が特許をしっかり抑えている分野が本命のはずです。それはコメ以上に遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシでしょう。水田稲作はアメリカではそれほど大きな産業ではないですし穀物メジャーも米の増産に大して力を入れていません。それに対し、遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシは、ヨーロッパ市場からは「安全性に問題あり」と締め出しをくらっているので、どうしても日本やアジア諸国に売りたい、と考えているはずです。特許や種子や栽培システムをアメリカ企業が完全に握っており、売れれば売れるほどアメリカのバイオ企業は儲かる仕組みです。
新聞各社にはそのあたりの農業の裏側をもう少し詳しく解説してほしいところですが、物足りない感じです。スポンサー各社の意向やら思惑もあって「報道」というよりは「広報」に徹している、そんな印象を受けます。

TPPのニュースをきっかけに、農業や食文化についての本当の議論が始まることを期待するのは、農家の無いものねだりでしょうか。ちょっとだけ寂しい思いをしながら、今日も新聞を広げています。

 



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