「株」

 アベノミクスの効果で、このところ大いに注目を集めている株の動向ですが、今の時期に、農村で株といえば、東証株価指数のことではありません。株は株でもイネの株、一株のケイスウのほうが大切な指標です。ケイスウとは茎の数のこと。つまり茎数です。

植物は、体を大きくするときに、上に背丈も伸ばすと同時に横にも大きくなっていきます。
普通の樹木は幹が太くなり、しっかりしてきますね。イネの場合は、幹が太るのではなく茎数を増やしながら、横に横にと太っていくのです。今の時期はイネの成長期にあたるので、おもしろいように茎が根元から分かれて増えていきます。種から出てきた芽は、最初はもちろん1本のたよりない細さですが、これが苗代にあるうちに2本くらいに分かれ、
田んぼに田植えされたあとには、2本が4本、4本が8本と倍々ゲームのように茎がどんどん分かれていくのです。もし証券取引所のほうの株がこんな勢いで増えていったら、天地がひっくり返るほどの騒ぎでしょうが、田んぼの株は毎年、6月から7月にかけて増資を何度も繰り返します。静かに、しかしジワリジワリと確実に、仲間を増やし大きくなっていきます。イネの生長を最も強く感じる瞬間です。

でもだからといって、どこまでも無限に茎数を増やしていいかというとそんなことはありません。人間が、適切なタイミングで茎数の増加を抑えてやらなければならないんです。
というのも、イネにとっての生長エネルギーの源は、太陽の光と水、それに大地からの養分、の3つなのですが、これらは無限に供給されるわけではないからです。あまりに株元が大きくなると、日当たりが悪くなりますし土の中にある肥料分を仲間同士で奪い合うようになってしまいます。もしそんなことが起こったら大変。日当たりが悪い、栄養が足りないとなれば、弱い茎は淘汰されてしまいます。動物の自然界でおこる「弱肉強食」のようなものが、田んぼの中のイネ、同じ株から出て命を分けた「茎」同士でも起こるんです。生きるか死ぬか、激しい内戦です。弱いものは完全に枯れ死しますが、生き残った茎のほうだって傷つき弱ります。
農作物として管理している私たちからすれば、領地内で消耗戦が起こらないよう、つとめて穏便に対処しなければなりません。ひとつの株で茎数が25本を超えてきたら、いよいよ人間の出番でしょうか。茎が分かれて増えていくのを抑えるには、水の量を加減します。そして肥料を絶ち切ります。すると「おい、水が少なくなってきたな。肥料のほうも足りなくなりそうだぞ。おれたち、今までみたいに行け行けドンドンじゃ、やばいのかなー」そんなことを相談するのかどうか知りませんが、突然、イネは無償分割のような発展を止めてしまいます。さらに「残ったもの同士、ちょっと団結して外敵に備えようぜ」と害虫や病気に負けない体作りのほうに生長の方向を勝手に変えていくのです。葉っぱは厚みを増し、繊維質で硬くなります。
ほんとに不思議です。イネ、恐るべしです。
梅雨の季節は、高温多湿で害虫やら病原菌やら発生しやすい時期ですので、イネ自身が自ら体を鍛え、免疫力を上げ、健全な肉体を作ってくれるのは、私たちにとっても願ったりかなったりのありがたい話です。病気や害虫をはねかえす体力さえあれば、農薬なんて不要です。

相場のほうでは「株は生き物」という格言があるそうですが、田んぼのほうの株も、なかなかしたたかな生き物です。
イネの生命力を最大限引き出せるよう、人間とイネとの二人三脚はまだまだ続きます。

 



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