「作業暦」

 3月中は温かい陽気で、雪解けも早く、春らしい大風も例年よりも早く吹きました。
桜の開花も平年よりも1週間も早く、めずらしく本当に暖かい春先でした。もともと、全国的には大雪の冬だったのに、こちら新潟県上越地方はそれほど厳しい冬ではなかったのです。それが桜が満開になる頃から、天気が急変しまして、4月は一転して低温の連続でした。ゴールデンウィークの現在で、平年に比べ1週間ほど遅れています。

土や泥のことを、方言で「ベト」といいます。
「ベトが乾かない」といえば、雨のせいで農地が濡れている、という意味ですし、
「ベトが重い」といえば、長靴や作業機に泥がこびりついて取れない、ということです。
「ベト」という方言の由来は、もしかしたら土がベトベトしているからではないかと勝手に推測したくなるほど、実は、新潟の土は細かい粒子の粘土質で出来ています。まさにベトベト、ネチネチしています。
本来、この粘土質の土壌は、水持ち、肥料持ちがよく、農業にとても向いています。とりわけ、農作物の味の決め手となる微量成分の土壌からの流亡が少ないため、高品質の農作物が栽培できます。しかし、乾くとレンガのように堅くなり、湿っていると底なし沼のように深くなるため、農作業は容易ではありません。
歴史を振り返る白黒写真に、沼の中で田植えをしている光景があります。驚きました。地獄の黙示録か犬神家の一族か、そんな映画のワンシーンのようですが、泥の中に胸まで浸かって手で苗を植えていました。レンコン掘りではなく、よく見たら田植えだったのです。泥沼との格闘の歴史を考えると、先人の苦労は計り知れません。
 新潟の「潟」は文字通りで、地形的にもやっぱり沼や湿地が多いのではないでしょうか。田中角栄という政治家から始まる「新潟・土木王国」の発端は、この厄介な底なし沼のような土地を、扱いやすい農地に変えていく大規模な農地整備だったのではないかと思います。

 4月の天候不順と低温続きで、田んぼの地温が上がらず、まだぬかるんでいます。約1週間程度の遅れでしょうか。もちろん、気温が上がり、天気が回復すれば、充分に取り戻せるくらいの遅れです。
 田んぼの地温は、スズメの鉄砲でわかります。スズメの鉄砲とは、春、田んぼに一番最初に生えてくる雑草です。スズメの鉄砲がひととおり生え揃ってくると、地温がいい具合にあがってきている、土のほどよい湿り具合だ。と経験的にわかります。
また、南に遠く望む妙高山から、雪が消え始め「跳ね馬」の残雪の模様が浮かび上がったら田植えの季節到来、といった昔ながらの作業暦もまだまだ健在です。
 予定としては、4月の15日から種まき、4月の20日にトラクター作業開始・耕水路の点検、5月6日ゴールデンウィーク明けから代かき、10日頃から田植えなどとパソコンで作業暦を作っています。しかし、ほんとに便利なパソコンでも万能ではなく、気温や地温の調節まではできません。工業生産と農産物の生産はこの点で、まったく違っていて、いまだにスズメの鉄砲やら妙高山に浮かびあがる跳ね馬にスケジュールを握られているのです。

苗代で育てている苗だけ先に出来上がった、でも田んぼの準備が間に合わず、田植えはまだできない、といったことのないよう、
苗には苗代という保育園でもうすこしのんびりしてもらおうと思います。

 



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