「花粉症に効くコメ」

  花粉の飛ぶ季節になりました。私も花粉症ですので、くしゃみ鼻水の止まらないつらい季節の到来です。
 今年は花粉の飛散量が少ないとの予報ですが、どんなもんでしょうか?
 先日、子供が読んでいる朝日小学生新聞の一面で、興味深い記事を見つけました。「お米で花粉症を治す?スギ花粉のアレルギー成分を入れる」というタイトル。政府系の研究機関が花粉症に効くコメを開発中で、いよいよ本格的な動物実験にはいるというのです。毎日食べる「花粉症に効く米」を数年後には医薬品として販売する方向だそうです。私はそういう研究があることは知っていたので進み具合はどうかなと読み始めたのですが、実は最後まで「遺伝子組み換え」という言葉が出てこなかったことにイヤな感じを持ちました。スギ花粉症を引き起こすアレルギー成分を含んだお米、というのは、遺伝子組み換えの技術を使っています。
 今回は子供向けの新聞だったので、あえてむずかしい言葉を避けた、というのなら理解できなくはありません。しかし、私には「遺伝子組み換え」といわずに別の表現を使ったのには、なんらかの意図があったように感じられました。つまり問題のすり替えというか、隠しているというか、誘導というか、既成事実をまず作ろうという、推進派の広報のように受け取ったのです。新聞とは報道なのか?それとも誰かの広報なのか??
 遺伝子組み換え食品には、ご存知の通り賛否両論があり、一般消費者はおおむね反対、政府や研究機関は推進との立場です。

 では、お前はどうなんだと問われると、はっきり言って遺伝子組み換え技術が本当に危険なのかどうかはまだ分かりません。ただ、被害が出ていないだけで必ずしも安全とはいえません。遺伝子情報が解明されたのはこの50年だそうです。遺伝子組み換え食品が出回り始めたのもまだつい最近です。地域によって考え方にも差があって、農業分野で強力に進めているのはアメリカ、反対にヨーロッパ諸国は強い拒否反応があります。
 推進派のアメリカでは、除草剤をかけても死なない大豆を農薬メーカーが開発したのが最初だったはずです。
 ラウンドアップという除草剤は植物を根まで枯らすことで有名な薬剤ですが、人間など動物にかかっても洗い流せばどうということはありません。そこで、大豆に動物の遺伝子を組み込む開発をしたら、除草剤をかけても枯れない大豆になりました。遺伝子組み換え大豆の畑(大豆畑には雑草がよく生えます)にヘリコプターで上から除草剤をバーッとまくと、動物と大豆は生き残り、他の植物はみんな枯れるということが起こります。このやり方は、大豆の生産コストを劇的に下げる効果がありますので遺伝子組み換え大豆は生産者を楽にし、農薬メーカーを儲けさせ、アメリカでは大流行です。
 日本では大豆の消費量の9割以上が輸入品ですが、およそ半分はそういう大豆だと言われています。正確なことは分かりません。偽装や混入が当たり前だからです。私たちは知らず知らずに結構な量の遺伝子組み換え食品を摂取していることになります。

 遺伝子そのものは、動物・植物・昆虫など、すべての生物にありますし、たんぱく質の親戚のようなものと考えれば、組み替えられた遺伝子も死んでしまえば土に還ります。糖尿病に効く薬インスリンも、人間と豚のかけあわせで遺伝子組み換え技術が使われていると聞いた事があります。遺伝子組み換えのすべてが危険とは言い切れないのです。むしろ、このバイオの技術は21世紀の切り札かもしれません。
 私が懸念するのは、実用化を急ぎすぎることです。
 研究は、大いに進めて結構、しかし安直な見切り発信は取り返しのつかない事態になりかねない、と思います。農業者の直感でしかないのですが、除草剤の効かない植物はそもそもおかしいです。絶対死なない500歳まで生きる人間とか、殴っても殴っても倒れないゾンビとか、そんなことを連想します。
 生物は、生まれてきて、食物連鎖にあって生存競争があって、誰かの栄養になる。淘汰があって年を取って病気になって、死んで土に還る。そういうものです。不死身では気味の悪いお化けです。そういうものを食べ続けたら、直ちに健康被害がないにしても10年後、20年後はどうなるのか?子供の世代、孫の世代になったら、何か起こりはしないか?
 また、もし自然界の中で遺伝子組み換え生物が増殖し始めたらどうなるのでしょうか?枯れない草、死なない魚、そんな外来種が自然界に放たれたら、生態系のバランスは大きく崩れるでしょう。それは望むべき世界なのでしょうか。

 医学の発展と遺伝子組み換えの技術は、今後も切り離せないだろうと思います。しかし、農業と遺伝子組み換えの融合は、長い時間をかけた検証がまだまだ必要なのではないでしょうか。子ども新聞をよんで、そんなことを考えました。




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