「TPPその後」

 お客様より「TPPの問題はあってもこれから農業は躍進の時代だ。頑張って」との励ましのお便りをいただきました。
 躍進できるかどうかわかりませんが、出来る限り頑張ります。

 TPPは、結局どうなったのでしょう。政府の意思決定を注意深く見守って来ましたが、何かが動き出した様子はありません。「交渉参加に向けて関係国との協議に入る」というところで議論が止まっているようです。具体的な結論はまたも先延ばしです。

 TPPに日本が参加した場合、もっとも苦しい立場なるのが農業、とりわけ稲作農業といわれています。
 しかし実は、私はTPPには当初から賛成でして、国を二分するほどの議論を見るにつけ、違和感を感じていました。私は現場にいるので、それなりに見ているものもあり、農業の当事者として意見もあります。TPPが始まったら、日本の農業は壊滅的な打撃を受けるのか? 私はそうは思わないのです。

 TPPはそもそも貿易を活発化させようという枠組みです。表向きは環太平洋と多国間にまたがるようなタイトルですが、日本とアメリカが極端に大きすぎるので、実際はこの2国間での話です。
 しかし、日米両国はどちらもGDP(国内総生産)における輸出の割合は1割程度といわれています。自由主義の国・アメリカと貿易立国・日本。掲げた看板のわりに輸出への依存度は小さく、国内消費による内需でほぼ経済が回っているといってよいでしょう。
 おなじ工業国でもドイツや韓国などは、輸出の割合が3〜4割だそうですから、こちらは輸出が国の根幹。国内に市場を持つ日本やアメリカとは対照的です。

 農産物に限定してみれば、アメリカから日本に入ってくる農産物は、まず小麦・大豆・飼料用のコーンなどがあります。
 小麦と大豆は日本国内での生産が少ないため輸入が当然ですが、しかしTPPが発効したといって、すぐに輸入が倍になる3倍になるというものではありません。そもそも大豆とコーンはすでに関税なしで日本に入っているはずです。
 アメリカ産の他には牛肉・果物・ジュース類も挙げられますが、これは日本では高品質は国産、低価格は米国産とすみわけがはっきり出来ており、今さら黒船襲来とあわてふためくほどのことはありません。
 コメについても、アメリカでは気象条件や水資源の関係から、おいそれとは増産できません(日本に比べて降雨量が少ないのです)。さらに、高品質のものを作り出せるような丁寧な生産管理技術は今のところありません。

 確かにここ数年、アメリカは、農産物の輸出が伸びています。不況にあえいでいるため、オバマ政権では特にスポットライトが当たっているようです。
 でもそれは、地球の人口が増え続けていることと無関係ではありません。1970年の37億からつい先日70億人目が誕生し、この40年で約2倍、30億人以上も増えました。
 また中国やインドの経済成長もあり、これまで貧しかったところがより豊かな食生活を求めています。
 アメリカが食料を増産し、世界に売っていきたいと思うのは自然だし、そしてその相手は日本ではなく、何よりもまず中国のはずです。中国の参加しない今回のTPPは、アメリカの中国に対する外交的なメッセージだろうと私は見ています。
 工業化にまい進する中国は、国内で農業問題への取り組みが遅れています。このまま発展を続けると13億人の食料は明らかに不足します。そのとき日本の10倍もの人口を持つ中国はどこから食料を買うのでしょうか?
 日本にとって中国は最大の貿易相手国ですが、現在は農産物の貿易については相互に関税障壁があり、かなり不自由です。

 中国をはじめとするアジアからの観光客が、日本で炊飯器を買って帰るのをよく目にします。それもおみやげなのか2つ3つといくつも運んでいます。高度成長期の日本では、海外旅行のお土産といえば、洋酒とかタバコとかだったと思うので、炊飯器とはいかにも奇妙ですが、でもあまりに良く見るので、もう驚かなくなりました。
 また観光の目的の上位に、日本の食べ物をあげる人も多いようです。
 日本の食文化のすばらしさ奥深さを、外国人観光客にあらためて気づかされる気もします。
 「日本の食べ物は美味しいなぁ。」

 TPPが日本の農業を破壊するのではなく、日本の農産物や食文化の再認識につながることを願っています。




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