「根のゆくえ」

 田植えが終わり梅雨に近づくと、一番最初に成長するのは根っこの部分です。根がしっかりと土をつかみ、土台がしっかりすると、あとから茎の部分、葉っぱの部分が生長しはじめます。まるで建物を建てるときを同じですね。基礎の部分が大事なのです。
 秋に大きな株になったイネを見るためにも、この時期には根の発達が不可欠です。病気にも害虫にも負けない頑丈なイネを育てるためには、その土台となる基礎の部分も、強固になっていなければなりません。
 最終的には草の長さ、色、厚さなどから、イネの生育具合を判断していくのですが、それはあくまでも目に見える分のことであって、地上部を支える目には見えない地下の部分は、普通はあまり注目されません。
 しかし最近はいろいろな調査で、根と収穫物の味の関係がかなり詳しく分かってきています。極細の髪の毛のような根がネット上に地上ぎりぎりに張り巡らされると、収穫物の味が良いのです。これに対し、基礎として地上部を支える骨組みとしての根は太くて地中深くにもぐっています。
 ではその地中深くに延びる太い根はどうやって育てるか。また、地表面近くに横に広がる毛細血管のような根をどうやって育てるか。ここは頭の使いどころで、正確な生育分析と栽培管理が必要です。しかし、そのコントロールはなかなか難しい。私たち栽培者の思いとは裏腹に、おいおい根よ、君はいったいどこへゆくのだ、そんな感じでいつも振り回されています。
 おもしろい事実があります。根は、少しのストレスを加えることでよく伸びるのです。根は本来、水や栄養分を地中から吸い上げ、地上部に送る働きがありますが、水や栄養が少し足りないくらいのときのほうがなぜか根がグングンと伸びていきます。
 例えば、根が弱っているなとか、根を伸ばしたいなというような時には、水をあげないのが鉄則です。水が欲しい、ノドがカラカラだといって、ノドから手が伸びてくる、そんな感じでしょうか。
 水が充分で栄養分も足りている、だから生長するというのではないのです。むしろ意外ですが、少し足りないくらい時のほうが、よく伸びる、よく生長するというのは、不思議でもあり興味深いところです。厳しい環境のもとに置かれると、遺伝子に組み込まれた成長ホルモンというものが出てきて活性化し、生長を促す仕組みなのかもしれません。とにかく過保護ではいけないのです。
 だからといって、水も栄養分も完全に切ってしまうとイネは枯れ死します。ノドが渇いても水辺に行って蛇口をひねることは出来ませんので・・・。ですからその一歩手前を、うまく見計らう必要があります。
 人間の教育にしたって、脳が発達すれば頭が良くなるし、骨や筋肉が強くなれば運動能力が良くなると分かっていても、実際に思ったようになんか育てることはなかなか出来ません。2人の小学生の親として、子供を育てる時にも、似たようなことを感じています。管理するところと粗放にしておく部分のバランスが絶妙なときに、とてもよく伸びるような気がします。 




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