「ゴッホの絵」

 ゴッホの絵が好きです。
 学生の頃、日本国内にあるゴッホの絵はぜんぶ見ようと、たくさんの美術館をめぐって歩いたこともありました。岩波から出ている『ゴッホの手紙』も何度も何度も読みました。37歳で死んだゴッホ。若すぎる死。自殺したのが1890年ですから、もう死んでから120年近くも経つんですね。そんな昔の人とは僕にはとても思えません。
 たくさんの絵をのこしましたが、いま現在でも高い評価を得ているのは、最期の2〜3年の間のわずかな作品なのだそうです。知名度のわりには優れた作品は少ないという意見もあります。でも好きなものにとっては、そんな客観的な評価はまた別の問題です。
 ゴッホの代表作には、肖像画や建築物の絵が多いですが、自然を題材にしたものも見逃せません。なんといっても「ひまわり」。黄色に揺れる麦畑の絵もあります。黄色はゴッホにとって「日本の光」の色なのだそうです。うねるような糸杉もありました。風で揺れる糸杉に、波打つ麦畑、まぶしく光る太陽、麦わら帽子をかぶって作業する農夫。ゆらめく月と星。そう、南フランスの農村の景色がたくさんあります。ミレーの描く農民達の生活に影響をうけた頃もあり、農村の景色を表現sすることに対してはゴッホ独特の思い入れがあります。
 2008年5月、季節は春。日本、新潟県の田園。
 とても色鮮やかな季節です。
 日に日に緑が深くなり、黄色いたんぽぽ、真っ赤なチューリップ、紫色のパンジーと原色の花が咲いています。遠くの山には残雪があり、空には鯉のぼりが舞い、田に引いた水はきらきら光る。一年でいちばん美しい日本の農村風景です。
 それで完全に仮定の話なのですが、この時代にもしゴッホが生きていて、絵筆をとっているとしたら、どんな絵を描くのだろうかと想像するわけです。ジャポニズムに心酔し、日本の浮世絵を模写していたゴッホ。
 もし日本の田園風景を描いたなら、どんな感じになったでしょうか。
 色鮮やかな油絵の具をじかにキャンバスにチューブから絞り、まぶしい季節を書き留めたでしょうか。
 踊るようなスピードで力強い「現代の種まく人」を描いたでしょうか。
 農道にイーゼルを立てて強風にあおられながらも激烈な仕事をしたでしょうか。
 毎日、田んぼで行き交う人々にあざけられながらも、太陽のしたに立って愚純に自分の観たものをキャンバスに叩きつけたでしょうか。

 ときどき写真を撮っている人を見かけることはありますが、絵を描いている人は見かけません。素敵なモチーフだと思うのですが。
 




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