「新しい名前」

 春になりました。種をまき苗を育て、農作業も忙しくなる季節です。
 農業雑誌をめくっていたら新品種の紹介のページが目にとまりました。品種改良はむかしからずっと行われてきていますが、そのつけられた名前に時代があわられるようです。とてもおもしろいと思いました。
 たとえば、「ほっとけ栗たん」。
 栽培が簡単なかぼちゃの名前です。栗のような食感でほっておいても勝手に出来るということでしょう。かぼちゃはもともと栽培が簡単で、ほっておいても育ちますが、それを名前につけるとは大胆です。
 「デコルージュ」。これはイチゴの新品種です。イチゴというのもほとんどが生食用か摘み取り園でイチゴ狩りを楽しむものと思っていましたが、この新種はケーキ向けなんだそうです。そうですね、ショートケーキにはやや大粒で真っ赤なイチゴが欠かせません。デコレーションケーキに真紅のイチゴ。生で食べるだけならに形が不ぞろいでもそれほど赤くなくても、甘くてみずみずしい味のほうが大事ですが、ケーキ屋さんで使うイチゴはいびつな形や白っぽいものは使えませんね。
 「ホンキートンクレモン1号2号」。国産の緑がかったレモンです。普通出回っているレモンは黄色い握りこぶしサイズのカリフォルニア産あたりが多いようですが、こちらは緑色でやや大きい品種。残留農薬を気にせずに、すだちやカボス感覚で使えるといいかもしれません。ホンキートンクという名前で、僕はローリングストーンズの楽曲を連想してしまうんですが・・・。レモンです。
 「黒いバラード」。生食用ブドウだそうです。見た目も真っ黒の粒。ブドウの種類もほんとに増えました。ひと昔まえには巨砲とマスカットとデラウェアくらいしかなかったですけど、いまはたくさんの種類があります。黒いバラード。どうです、この名前? えらいコジャレた名前ですよね。
 「キムさん75」。これはなにかすぐわかります。そう白菜です。キムチ向けに開発された品種だそうです。コリアンに多いキムという苗字と、キムチのキムをかけています。ユーモアを解する人がつけた名前ですね。キムチという伝統的な漬け物であっても、原材料は日々改良、進化しているのですね。
 新品種の名前がおもしろいなあと思うのは、逆に言えば昔の名前がひどかったのです。同じ雑誌から拾っても、たとえば小麦の名前「農林61号」。きっと鉄人28号がはやっていたころの品種ですね。それから「下仁田ネギ」。そのまんまですね。工夫のかけらも見られません。お米の「コシヒカリ」や「あきたこまち」も、産地名を前に、ヒカリとか小町とかを後ろにつけた組み合わせ。「下仁田ネギ」よりちょっと考えましたというレベル。「黒いバラード」の斬新さにはおよびません。それから有名なトマト「桃太郎」。桃じゃなくてトマトに桃太郎とは少しひねってあるものの、イメージがいかんせん古い感じです。
 とはいえ、名前をつけるとはけっこうたいへんな作業です。農産物に限らず、人の名前、街の名前、ビルの名前、お店の名前。考え始めると夜も眠れなくなりそうです。名前は長く使うものだし、途中で変更するのがいろんな意味でまたたいへんってことを考えると、これはやっぱり真剣です。
 気軽につけて楽しめることだってあります。初めて会った人のニックネームを考えて一人ふきだしてしまったり、飼っている金魚一匹ずつに名前をつけて呼びかけてみたり、けっこう愉快な遊びです。
 




HOME

Copyright (C)1997-2008 Akiyama-farm. All rights reserved.

このホームページ上に掲載されているすべての画像・文書などの無断転載を禁じます。